舞台やテレビドラマ、など、場所を問わず幅広く活躍されているほか、現代演劇の女形という独自の路線も開拓している俳優の篠井英介さん。篠井さんから醸し出されるどこか中性的でやわらかな雰囲気はどのように身につけられたのでしょうか。

（聞き手・中山幸穂）

※篠井英介さんは１月２５日の朝日新聞夕刊「グッとグルメ」に登場しました。

https://www.asahi-mullion.com/column/article/ggourmet/5929

　はじめに、このたびの能登半島地震の被害に深く心痛めております。一日も早い復旧・復興と、皆さまの平穏と健康を心より願っています。

　僕が初めて立った舞台は日本舞踊でした。僕の故郷の金沢という町は雅なところで、親戚のお姉ちゃんがお琴をやっていたり、日本舞踊をやっていたり、少し古典的な習い事をしている人が身近にたくさんいました。中でも発表会を見に行ったりして目にする機会が多かった日本舞踊に興味を持って、「やりたい」と言って習わせてもらいました。ここで舞台に立つことの面白みを覚えましたね。

◆女形が向いていると感じたのは直感

　日本舞踊では実は最初、女の踊りを勉強するのです。それは、ゆくゆく男役になるにしても、女方のお勉強をしておくと色気が出るから。あるいは自分が男役をやったときに相手の女方さんの仕草とか心持ちとかが分かるので、お芝居の役に立つということで、小さいときは誰であろうが、女の踊りから学びます。

　僕も習い始めたときは五歳だったので、女の踊りから入りました。そうして、勉強しているうちに女の踊りの方が好きになってきたのです。その後、色々なお芝居や映画を見ても、どうしても女の役の方が何か面白いと思えたし、僕には向いているような気がしました。女形の俳優になりたいと考えたのは、そういうほとんど感覚的なものなんですね。

　そこから普通の現代演劇で、女性の俳優さんに混じって女性役をやれるようになれたらいいなと漠然と思いながら続けてきて、何とか女形として色々な舞台に出させていただけるようになりました。

　昨年やった二本の舞台でも、女性役で出演させていただきました。一つはちょっと一捻りある女性役で、もう一つは子供を抱いている母の役でした。そういうふうに、今この歳になっても、女性役を他の方ではなく、「篠井英介に演じさせたい」と思っていただけることがありがたく、嬉しいです。もちろん男性役もその役が自分に向いていると思えばお引き受けしますけれど、僕自身は女形の俳優だと自負しています。

◆「インヘリタンス－継承－」ではゲイの男性役に挑戦

　２月２４日まで東京芸術劇場で公演中の「インヘリタンス－継承－」に出演しています。今回は女性役ではなく、ゲイの男性を演じます。前後篇合わせて６時間半の大作です。2015年から2018年のニューヨークを舞台にゲイ・コミュニティの人々の人間模様を描いたお話です。

　６０代・３０代・２０代と、３世代の人々が登場しますが、僕はその中の過去、エイズが大流行し、同性愛者ということに強い罪悪感を持つ時代を生きた人物を演じます。アメリカやヨーロッパ社会はキリスト教が同性愛を聖書の中で断じていますので、罪として扱われていました。ですから日本における言葉の侮蔑的なニュアンスよりももっと恐ろしく彼らは罪悪感を持つ。何も悪いことをしていないのに差別をされ、下手をすれば石を投げられる。そんな中でやっとパートナーを見つけたと思ったら、エイズになってしまう。そんな過去の歴史を若者たちに語っていきます。先生役じゃないですけど、ある種ナビゲーターみたいな役どころではあるかもしれませんね。

　この作品の中で、「歴史を振り返って学んだり聞いたり知ったりすることは凄くいいことだ。意味がある。だけど昔を変えるということはできない」というようなセリフがあります。昔は昔、過去は過去ということで君たちも知ってほしいし、色々なことを感じてほしい。でもあなたたちは今生きているのだから、その過去を知った上で今を生きなければいけない。そんなことを伝えたいのでは、と感じました。

　ちょうどコロナというパンデミックを私たちも経験しました。病気の種類は違うけれども、みんなが恐れた疫病という意味では同じ。それを経た僕たちが、今この作品で仲間と連携しながら生きていくということは、何か皆さんの胸に迫るものがあるのではないかと思っています。

篠井英介（ささい・えいすけ）

　ささい・えいすけ　俳優。１９５８年生まれ、石川県出身。２月１１日～２４日、東京・池袋の東京芸術劇場で舞台「インヘリタンス―継承―」に出演中。

舞台「インヘリタンス―継承―」HP:https://www.geigeki.jp/performance/theater350/