美術館がある大宮は、世界的に「盆栽の聖地」として知られています。理由は盆栽園が集う「大宮盆栽村」。関東大震災で被災した東京の業者が、良質な土と水を求めて集団移転したのが始まりで、昨年100周年を迎えました。
象徴となる盆栽が、蝦夷(えぞ)松「轟」です。開村当時から営業する「蔓青園(まんせいえん)」が95年前、国後島で推定樹齢千年の松を鉢上げしたものです。2010年の開館時から当館で展示しています。
歳月を経て白骨化した幹の白と、本来の幹の茶色、葉の緑のコントラストが美しい一品。北の大地の寒さを耐え忍んだ厳しい姿で、枯れて空洞化したところを残したまま生き続けています。生と死が共存する生命力の強さが見どころです。
寒冷地の樹木なので暑さ厳しい埼玉で育てるのは至難の業。新芽の頃は触れた体温で枝が枯れるほどです。マツは水を嫌うという常識を覆し、日に何度も葉に水やりするなど、夏場を乗り切り何十年と維持する方法を確立したのは、蔓青園の功績と言われます。
遠方の原木の培養や薬剤研究、道具の開発まで、盆栽村の各園が切磋琢磨し、技術を高めていったのです。それが評判となり、著名人も多く訪れています。
「吉田茂旧蔵の欅」は、吉田茂が所有し、盆栽村の「九霞園(きゅうかえん)」が管理を任されていました。まっすぐに伸びた太い幹とほうきのような枝ぶりのバランスが良く、吉田は「おもしろい」と言ったと伝わります。
盆栽で難しいのは現状の姿のまま維持すること。推定樹齢160年、大きいもので30メートルにもなる木を95センチにとどめる技術は、盆栽技師の技量が試されます。
盆栽を守り抜くには、木とじっくり向き合う姿勢が不可欠。盆栽村の歴史を語る逸品を所蔵する当館の技師は、雪の日に泊まり込み1時間ごとに枝の雪を払うなど、地道な手入れと小さな異変を見逃さない観察力で次代につないでいます。季節の巡りごとに姿を変える「完成のない芸術」と技師の心意気を味わっていただきたいです。
(聞き手・水越悠美子)
《さいたま市大宮盆栽美術館》 さいたま市北区土呂町2の24の3(☎048・780・2091)。午前9時~午後4時半(11月~2月は4時まで。入館は30分前まで)。310円。原則木曜休み。
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主任 立石見雪さん たていし・みゆき 1991年生まれ。一橋大大学院社会学研究科修士課程修了。2021年から現職。盆栽の歴史や文化を伝える展覧会やワークショップなどの普及事業を担当。 |
(2026年3月24日、朝日新聞夕刊欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。)