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現場発 Kカルチャーの最前線から

K-POP界を席巻する「栗羊羹」

 韓国で「栗羊羹」が旋風を巻き起こしている。食べる栗羊羹(くりようかん)ではなく曲のタイトルで、韓国の発音では「パムヤンゲン」。ワルツ風で一度聴くと耳から離れない中毒性のあるメロディーだ。歌手BIBI(ビビ)が愛らしくささやくように歌う。

 バレンタインデー前日の2月13日に発売され、韓国の音楽番組や音楽配信チャートで軒並み1位を記録した。特に癖になる歌詞は「タルディタルゴ、タルディタルゴ、タルディタンパムヤンゲン(甘くて甘くて、甘くて甘くて、甘くて甘い栗羊羹)」の部分だ。よくよく歌詞を聴いてみると、甘い恋を歌っているというよりは、「私が食べたかったのは甘くて甘い栗羊羹」と、別れた恋人への惜しい気持ちを歌っている。私があなたに望んでいたのはただ一つ、甘い恋だったと。そんな恋心を栗羊羹に例えた。

 

                                     「栗羊羹」のミュージックビデオ

 BIBIは2019年にデビューした歌手で、俳優としても映画「ファラン」(2023)などに出演し、そこそこの知名度はあったが、「栗羊羹」の爆発的なヒットで誰もが知る存在となった。

 実は、BIBIよりも「栗羊羹」を作詞、作曲したチャン・ギハの方が有名だった。これまで独特の歌詞やメロディーで注目を浴びてきた。「栗羊羹」の公式ミュージックビデオ(https://youtu.be/smdmEhkIRVc)にも別れた恋人役で出演している。バンド「チャン・ギハと顔たち」のリーダーを務め、解散後はシンガー・ソングライターとして活躍。国民的歌手IU(アイユー)と交際していたことでも知られる。

 IUやチャン・ギハ、亡くなった伝説的な歌手キム・グァンソクなどの声で歌われる「栗羊羹」も次々に公開されて話題を集めている。と言っても本人が歌っているわけでなく、著名歌手の声をAIで再現し楽曲に乗せたAIカバー曲だ。

 ところで、私は最初「パムヤンゲン」という曲名を聞いて、「栗羊羹」と頭の中で日本語に変換したとき、「日本にまつわる歌なのかな」と思った。しかし歌詞のどこにも日本にまつわる部分はない。周りの韓国人の友達に尋ねてみると、栗羊羹に日本のイメージはないと答える人が多かった。むしろ「おばあちゃんが好きなイメージ」だそうだ。中には「そういえば、おばあちゃんはヤンゲンをヨーカンと言っていた」と思い出す人も。歴史をたどってみると、やはり日本から韓国へ伝わったらしい。

 

                       クラウン製菓から発売されたBIBIの写真とサイン入り限定版「栗羊羹」=松沢美緒さん撮影

 ヒットの理由として「懐かしさを刺激した」という意見がある。おばあちゃんを連想させる栗羊羹。チョコレートの甘さとはちょっと違う。韓国では大手製菓会社のクラウン製菓が出している栗羊羹が有名で、「栗羊羹」シンドロームのおかげで売り上げが急増している。BIBIの写真とサイン(印刷された)入りの限定版の栗羊羹も発売された。私も食べてみたが「甘くて甘くて」と歌われているほどには甘過ぎず、ほんのり優しい甘さ。日本の栗羊羹と何ら変わらない。

 韓国では選挙のとき、流行りの歌の替え歌で選挙運動をする候補者も多く、今月10日投開票の総選挙では「栗羊羹」の替え歌も聴こえてきた。「栗羊羹」シンドロームはまだまだ続きそうだ。

 

 成川彩(なりかわ・あや)

 韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。

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