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琳派【上】 東京国立博物館

憧れて継承 流れを一望

尾形光琳筆「風神雷神図屏風」重文 江戸時代(18世紀)
尾形光琳筆「風神雷神図屏風」重文 江戸時代(18世紀)
尾形光琳筆「風神雷神図屏風」重文 江戸時代(18世紀) 酒井抱一筆「四季花鳥図巻 巻下」(部分) 江戸時代(1818)

 桃山時代の京都で興り、大胆な色彩と造形感覚で雅(みやび)な絵画や工芸を生み出した琳派。俵屋宗達(たわらやそうたつ)に尾形光琳が傾倒し、一世紀の後、その光琳に江戸の酒井抱一(ほういつ)らが私淑して、様式を発展させていった特異な流派と言えます。

 そうした流れを、国宝や重文を含む琳派作品で体系的に学べるのが東京国立博物館。今回は、琳派の名前の元となった光琳が描いた「風神雷神図屛風(びょうぶ)」を見てみましょう。

 「風神雷神」は、琳派の記念碑ともいえる象徴的なモチーフ。宗達を始め、抱一、鈴木其一(きいち)と多くの画家によって描き継がれてきました。

 高級呉服商の家に生まれた光琳の風神雷神は、力強く派手やか。小さい頃から豪華な衣装を見慣れていたためでしょうか。神々の肌の緑や衣装の赤、雲の黒が鮮やかに目を引きます。

 一方、光琳を慕うあまり、光琳の「風神雷神図屛風」の裏に「夏秋草図屛風」という作品まで描いてしまったのが抱一です。大名家の次男坊に生まれ、浮世絵や俳諧に親しむも、30代半ばから画業に専念。情緒豊かな花鳥画で、新たな琳派を確立しました。

 その抱一の「四季花鳥図巻」は、二巻にわたって四季折々の草花や生き物を描いた巻物。細部まで謹直で、自然観察の鋭さが伺えます。

 宗達、光琳、抱一。直接の師弟関係はないものの、「憧れ、まねる」という方法で、琳派は継承されていったのです。

(聞き手・中村茉莉花)


 どんなコレクション?

 本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)の「舟橋蒔絵硯箱(まきえすずりばこ)」や光琳の「八橋蒔絵螺鈿(らでん)硯箱」、抱一の「夏秋草図屏風」など、琳派の名品を定期的に公開している。博物館は1872年創立。東洋の美術作品や考古遺物など、国宝88件、重文634件を含む約11万6千件以上を収蔵する。

 「風神雷神図屏風」は7月2日まで本館7室で展示中。「四季花鳥図巻 巻下」は10月31日から12月17日まで本館8室で展示予定。

《東京国立博物館》 東京都台東区上野公園13の9。午前9時半~午後5時((金)(土)は9時まで。入館は30分前まで)。620円。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。問い合わせは03・5777・8600。

川島公之さん

実践女子大教授 仲町啓子さん

なかまち・けいこ 東京大学大学院修士課程修了。専門は琳派や浮世絵など江戸時代の美術。実践女子大学香雪記念資料館長。秋田県立近代美術館長。著書に「琳派に夢見る」「もっと知りたい尾形光琳」「すぐわかる琳派の美術」など。

(2017年6月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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