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近代西洋ガラス工芸【中】 飛騨高山美術館

体系的に見るドーム兄弟

ドーム兄弟「野薔薇文ランプ」(19世紀末~20世紀初頭)
ドーム兄弟「野薔薇文ランプ」(19世紀末~20世紀初頭)
ドーム兄弟「野薔薇文ランプ」(19世紀末~20世紀初頭) ドーム兄弟「花器 西洋かぼちゃ」(1910年ごろ)

 エミール・ガレと同時期に活躍したのが、仏のドーム兄弟です。ガレの活躍に影響された2人は、父親のガラス工場を継ぐと、新しい技法で芸術的な作品を数多く生み出しました。

 彼らが運営したドーム社の作風は、草花などを写実的に表現したことで知られていますが、芸術的にも商業的にも成功したのが照明器具です。飛騨高山美術館はドーム社が得意としたランプや花器など20点を収蔵し、アールヌーボーからアールデコの流れを体系的に見られる貴重な美術館です。

 「野薔薇文(のばらもん)ランプ」は代表作の一つ。19世紀末はガス灯や石油ランプから電気の照明へと移行する時期で、多くの顧客から求められました。ランプは白いガラスの上に赤いガラスをかぶせ、模様を削り出す技法で制作。内側から光を通すと野バラのシルエットが映し出され、室内を彩ります。ランプシェードの縁や支柱に施された葉は鍛鉄で出来ています。ガラスと鉄の融合は新しい組み合わせとして、当時の流行でした。

 写実的な表現は花器にも見受けられます。「花器 西洋かぼちゃ」のモチーフはコロシント瓜(うり)というウリ科の実。黄のガラスに赤や青のガラスの粉末をまぶすことで、熟しきった実を忠実に再現しています。実に絡みつく蔦(つた)の流れも見事。自然そのものの美を感じられます。

(聞き手・吉田愛)


 どんなコレクション?

 ドーム兄弟やエミール・ガレらのガラス工芸品、家具を中心に約2千点を収蔵。英の建築家、チャールズ・R・マッキントッシュの図面を元に再現した室内装飾も。美術館を設立したのは岐阜県出身の実業家で館長の向井鉄也氏(77)。現代ガラス工芸家・藤田喬平の作品に感銘を受け、装飾美術に特化した美術館を目指し、1997年に開館した。仏のガイドブック「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三つ星を獲得。「野薔薇文ランプ」と「花器 西洋かぼちゃ」は常設展示。

《飛騨高山美術館》 岐阜県高山市上岡本町1の124の1(TEL0577・35・3535)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。1300円。

山根郁信さん

美術商 山根郁信

やまね・いくのぶ 兵庫・神戸のアンティーク専門店「アンティック・エルテ 1920」の代表。アールヌーボー期の美術品に精通し、展覧会図録にも多数執筆する。編著に「別冊太陽 ガレとラリックのジャポニスム」など。

(2017年7月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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