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建モノがたり

水まもりトイレ(神奈川県厚木市)

清く美しく 純白の管状空間

水まもりトイレ(神奈川県厚木市)
「水を使いながら守る」ことを伝えたいと命名した。
井戸水を使い、災害に備え発電機も設置
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 広々とした企業施設の中に、まっ白なウェディングケーキのような建物。これは何のためのもの?

 下水道管維持管理の管清工業(本社・東京都)が昨年オープンした「厚木の杜環境リサーチセンター」は、企業や自治体向けの下水道管管理研修や小中学生の体験学習を行える施設。緑豊かな周辺環境を生かし、自然とふれあえるビオトープもある。約3㌶の敷地を入ると目に入るのが「水まもりトイレ」だ。

 長谷川健司社長(71)のリクエストは「今までにないトイレ」だった。設計を担当したT2Pアーキテクツが提案したのは「管状の空間」。三浦朋訓さん(47)は、「下水道に関わる管清工業ならではの場所づくりを目ざした」と話す。

 直径5㍍の小円筒の外側に7・5㍍の中円筒、さらに10㍍の大円筒。高さの違う三つが、円周上の1カ所で接して立つ。個室は小中の円筒の間に四つ。入ると、意外なほどの明るさに驚く。

 大円筒の外側には、さらに大きな円形の水庭があり、個室のすぐ外側まで水が張ってある。個室と大円筒の間はガラス張り、日光に照らされた水面のきらめきがすぐそこに見える。

 開放感と明るさの一方、プライバシーの確保も考慮。外壁の高さや外壁を水庭に浮かせるすき間に反映されている。また個室の様子が水面に映らないよう、噴水で常に波紋を生じさせている。

 小円筒に囲まれた入り口の中心には、下水道用のコンクリート管を利用した手洗い場を設置。個室を示すピクトグラム(絵文字)の素材は水道用の樹脂管。一見真っ白な壁の上部は一部が水色で、上から見ると「K」の字をもとにした管清工業のマークに見える。

 白いトイレを保つため清掃は社員が毎日欠かさず、「完成時のレベルを保つ」意識を共有している。「会社の顔だからね。引退したら私も参加したい」と長谷川さんは話した。

(片野美羽、写真も)

 DATA

  設計:T2Pアーキテクツ
  階数:地上1階
  用途:広場・屋外トイレ
  完成:2022年

 《最寄り駅》:愛甲石田駅からバス


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 敷地内にある長谷川記念館では日本の下水道の歴史をパネルで紹介、下水道管理に使われてきた機材も展示する。同じく敷地内の研修用下水道管路は直径25、60、150㌢の下水道管を再現、中に入ることもできる。午前9時~午後5時。問い合わせは☎03・4335・9155。

▼厚木の杜環境リサーチセンター
https://www.kansei-pipe.co.jp/atsugi-forest-erc/

▼T2Pアーキテクツ
https://www.t2parchitectsoffice.com/

(2023年9月12日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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