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美博ノート

「ナーガの上のブッダ」

アンコール・ワットへのみち(名古屋市博物館)

 


美博ノート
砂岩(部分)

 

 安らかな表情で座禅を組むブッダ。両目を開き、両手はへその下でゆったりと重ね合わせる。頭上には七つの頭を持つ蛇王ナーガ。とぐろを巻き、鎌首をもたげて頭を大きく広げる。

 一見ブッダに襲いかかっているようだが、そうではない。1週間降り続く雨の中、瞑想(めいそう)の修行を続けるブッダを、傘となって雨風から守っているのだ。

 高さ88センチの本作は、アンコール王朝(9~15世紀)時代、11世紀に作られた。「ナーガの上のブッダ」は、インドや東南アジアで繰り返し彫像に使われたモチーフで、円錐(えんすい)状の頭頂部や、びっしりと彫り込まれた渦状の螺髪(らほつ)が特徴だ。

 これら仏教やヒンドゥー教の石造りの神々は、王朝が滅亡した後も、深い熱帯雨林の中でひっそりと信仰されたという。

(2016年5月31日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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