朝の富士
白んだ空を明るい水色で、朝日を受けて輝く富士の頂の冠雪を黄色で、光に照らされた山体を黄土色で表現している。
「絵を見て、庭にあった枝分かれのハナユズの木だと思いました」と、学芸員の小南桃生さんは二股の木の写真を取り出した。熊谷守一邸の庭を、記念館の裏手に忠実に再現するにあたり、大量の写真や資料を集めたのだという。
1956年に倒れて以降、ほぼ外出せず自宅にいた熊谷にとって、庭は創作の泉だった。故郷の岐阜県中津川市付知町に多く見られる朴(ほお)の木や信濃柿、タラの木や山菜など100種前後の植物。水が枯れる度に深く掘った池。そこに遊ぶチョウやカエル、鳥やネコも、慈しみ描いた。
このハナユズの木は縁側のすぐ南にあったと小南さん。「東、つまり画面の左手から朝日を受けるさまを、縁側からおりて描いたのでしょう。ここでも光は黄色です。頭上は樹木の葉が生い茂る庭へ横からさす光に、心が動いたのだと思います」。一日の大半を庭で過ごすようになってからも光をみつけ、描き続けたのだろう。