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片桐仁さん ロングインタビュー

 

 謎のベールに包まれたコントグループ「ラーメンズ」 。

 コンビとしてテレビなどへの露出はほとんどせず、舞台を主戦場とし、チケットは即完売。どこかミステリアスな魅力をまとう彼らに、どうしようもなく引きつけられたのは私だけではないでしょう。

 多摩美術大学の同級生であった小林賢太郎さんと片桐仁さんで結成をし、2020年に小林さんがパフォーマーを引退、コンビとしての活動を終了するまでカリスマ的な人気を誇りました。 

 昨年50歳という節目を迎え、現在は俳優や造形作家としても引っ張りだこの片桐仁さんに、貴重なコンビ時代のお話から俳優業への心構えまで、存分に語っていただきました。

(聞き手・斉藤梨佳)

 

Profile

片桐仁(かたぎり・じん)

1973年生まれ。埼玉県出身。多摩美術大学在学中に同級生の小林賢太郎と結成したコントグループ「ラーメンズ」として活動後、現在は俳優、芸人、造形作家として活躍。プライベートでは2児の父。

©TWINKLE Corporation Ltd.

 

※片桐仁さんは3月21日(木)朝日新聞夕刊「グッとグルメ」に登場しました。

 

「ラーメンズ」について

 

――コントグループ「ラーメンズ」としての活動が芸能界に入ったきっかけですよね?

 

 そうですね。1996年に多摩美術大学を卒業して、そこからスタートですね。

 

――「爆笑オンエアバトル」(1999~2010年、NHK総合)に出演されていたのはいつ頃でしょうか。

 

 1999年だから、26歳ですね。警備員のアルバイトを2001年までしていたので、爆笑オンエアバトルに出ながらもやっぱりアルバイトは続けていましたね。

 

――片桐さんのお気に入りのコントはありますか?

 

 楽なのは、しゃべらないやつ(笑)

 

 「現代片桐概論」(※1)、「読書対決シリーズ」(※2)、「日本語学校シリーズ」(※3)は学園祭を回るときに、大体コント5本くらいでミニ単独ライブみたいなのをやるんですよね。その時によくやっていました。学園祭の時期はあちこちを回っていたので、大体「現代片桐概論」で標本役の僕を賢太郎が背負って入ってきて、急にコントが始まるっていう。あれは立っているだけです(笑)

 

※1 「片桐」という架空の生き物について講義をするという設定のコント。

※2 それぞれ別の本を読み合い、対決をするというコント。

※3 色々な国の日本語学校をテーマにしたコント。

 

――相方の小林さんがパフォーマーを引退されると聞いた時は、どう思われましたか?

 

 引退する人を止めちゃいけない世界なのでね。賢太郎は何かを人に教えたりすることにすごく興味があって、後輩たちの面倒を見るのも好きだし。そういう意味でやることはやったのかな、と思います。でもどうなんでしょうね。また出たくなるんじゃないかと思いますけどね。

 

――「ラーメンズ」のコントは台本もかなり長かったと思いますが、覚えるのは得意ですか?

 

 あの頃は覚えるのがすごく得意だったんです。もう3回くらい読んだら大体覚えていました。でも今は全然ダメです(笑)「ラーメンズ」の頃の詰め込みというか、ギリギリまで相方が書いているタイプだったので50ページ分くらいの2人芝居を1、2日で覚えなくちゃいけなかったんです。なんだったら公演初日にも「こんな感じでやってみて、とりあえず今日はこれで」みたいな感じだったりするんですよ。

 

お笑いの舞台だからこその難しさ

 

 エレ片(※4)もそうなのですが、どうしてもお客さんの前で答え合わせをしないと、どのくらい伝わっているのか分からないですよね。もちろんテレビでやるよりも生のお客さんの方が、集中力が高いので反応もよいのですが、それでも実際にやるまでは細かいところまで計算しきれないですよね。

 

 お芝居だったらストーリーを伝えることが重要なので、必ずしも全部が全部伝わらなくてもよいのかもしれませんが、お笑いの舞台は伝わる量が笑いの量に比例していくので、このくらいウケるためにはこの振りがあって、この段階で設定を分からせて、みたいなことが必要なんですよね。相方はその設計図のようなものを相当細かく書く方だと思います。でもその通りにやっても、そこまでうまくいかないこともあるし、逆に思ったよりウケちゃう時もあるし。「ラーメンズ」はそういう細かいさじ加減をすごくしていましたね。

 

  相方は割と形から入るタイプなので、この役はこういう人だからこの歩き方で、こういう姿勢でっていうのを決めるのが好きな人です。僕は割と片桐仁がその役をやる、みたいな感じですよね。

 でも面白いなと思うのが、見ている人は逆だと思ったりするわけですよ。賢太郎が色々とつくって演じている方が賢太郎っぽさが出て、僕が生身で演じている方が役っぽく見えるっていう考え方もあるから。声色を妙に変えすぎてもうそっぽくなるし、うそっぽい方がコントっぽかったりもしますから難しいですよね。

 

  ※4 片桐仁とお笑いコンビ「エレキコミック」からなるお笑いユニット。ラジオやコントライブなども行う。

 

 

 

 

芸人、そして俳優としての過渡期

 

――「完売劇場」(2000~2009年、テレビ朝日系)が大好きで、よく拝見していました。

 

 完売劇場に出演していた時がちょうど過渡期でした。以降、「ラーメンズ」ってほとんどバラエティーに出ていないんですよ。当時は若手お笑い芸人のレギュラーってなると、ネタも少しはあるけれど、体当たり企画とか、色々なことに挑戦していくことが多かったんですね。でもそういう企画に相方は段々出なくなって、さすがに僕1人だとできないなと思って、僕も出なくなっていって。

 

  ありがたいことに俳優業もくるようになりました。初めは舞台を中心にやっていましたが、当時から舞台だけで暮らしていける人はほんの一握りで、そんな中、徐々にテレビドラマにも呼ばれるようになって仕事の幅が広がり、その中で「99.9-刑事専門弁護士-」という作品に出会って、そこで潮目が変わった気がします。

 

俳優としての葛藤

 

――お笑い芸人から、徐々に俳優として活動をすることになって葛藤はありましたか?

 

 めちゃくちゃありましたよ。今もありますよ。

 

 人によって言うことも求めているものも違うし、やっぱり画(え)の中で求められていることができないと、やっていないのと同じになってしまうので。例えば、カメラが寄っている場所の外で動いてはダメだから、そのシーンは目の動きだけで表現をするとか、それを客観的に演じ分けられる人もいるんですよ。ただ俳優もタイプが分かれるので、僕はもう全部をコントロールしようとはしないことにしましたね。

 

 「この人の芝居いいな、こういう人になりたいな」とかって思うんだけど、なれないんですよ、別の人間なので。そういう時に演出家さんに言ってもらったんです。「別の人になりきろうとしてなれる人もいるけれど、そういう人は稀有(けう)だし、そうだからこその悩みがあるわけで。だから、パラレルワールドの自分がこの役を演じているっていうように、その役を自分のこととしてとらえるのが1番近道なんじゃないか」と言ってもらったことがあって、それはだいぶ気持ちが楽になりましたね。

 

現場でのコミュニケーション

 

――ドラマの現場ではどのように過ごしていますか?

 

 最近も学校の設定のドラマをやっていたのですが、僕は50歳なので、現場でも年齢が上の方なんですよ。僕は先生役ですが、生徒役の子たちは若いので、もう親みたいな感じですよね。「どこから来たの?」とか「普段何してるの?」とか話しかけていました。 そうやって盛り上げていってからお芝居をした方が、緊張感はありつつも、先生と生徒のいい距離感になるじゃないですか。ドラマってその日に会って、その日に終わりってことも多いので、そういう時間を大事にしていますね。

 

畑で家庭菜園

 

――私生活ではどんなことをされていますか?

 

 うちは大家さんの畑を半分貸りていて、家庭菜園をやっているんです。今は菊芋がだいぶできてきたので、近所にあげたりもしています。春はふきのとうがいっぱいとれるし、柿もとれる。毎年ゴーヤもとれます。プチトマトもうまくいくと2,300個なるので、近所のみんなに配って、「もう食べられない」って言われるんです。それも大事なコミュニケーションの一つです。

 

レギュラー情報

■TBSラジオ『エレ片のケツビ』 毎週土曜25:00-26:00

 

■TOKYO MX『はじめての美術館』 第2・第4日曜12:29-12:59

 

 
 

取材後記

  取材当日、私はひどく緊張していました。でも同時に、学生時代の私に教えてあげたいと思っていたのです。「あなたが今憧れてやまない片桐さんと、直接会える日がくるよ」と。

 こちらの緊張感を察してくださったからなのか定かではありませんが、 片桐さんはお会いした瞬間から優しく、そして面白かったです。最初から最後まで、気付けばずっと笑っていたように思います。 

 「ラーメンズ」というコントグループは謎が多く、あまり自分たちのことを語りたがらないイメージがあったので、当時のことを聞くのは内心ドキドキしていました。ただ片桐さんは嫌な顔1つせず、答えてくださいました。 何より、その当時のお話をご本人から聞けることがとても幸せで、この貴重なお話を自分の中だけにとどめておきたいと思ってしまうほどでした。でもそんなわけにはいきません。その気持ちをぐっと抑えて原稿にしたのが、今皆様が読んでくださっているこの記事です。  

 片桐さんにお会いして感じたのは、片桐さんは決して飾ることなく、それでいて相手の心を柔らかく解きほぐす力がある方なのだということです。 

 イメージが変わってしまうから本当に好きな人には会わない方がいい、とよく言いますよね。その気持ちも分かります。 

 でもやっぱり私は、お会いできてよかったです。 

 心からの感謝を込めて。

(齊藤梨佳)

 公式ホームページ
 https://twinkle-co.co.jp/talent/katagirijin/

 グッとグルメ(3/21午後4時から配信)

 https://www.asahi-mullion.com/column/article/ggourmet/5997

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