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村上海賊ミュージアム

陣羽織の主 「水軍」以外の顔

「能島村上家伝来猩々陣羽織」 ラシャ(毛) 個人蔵(館保管)
「能島村上家伝来猩々陣羽織」 ラシャ(毛) 個人蔵(館保管)
「能島村上家伝来猩々陣羽織」 ラシャ(毛) 個人蔵(館保管) 「紅地白引両上字紋幟」 絹。274.5×66.0センチ。個人蔵(館保管) 「乳」の部分は麻

 広島県と愛媛県の間に連なる芸予諸島の周辺海域にはかつて、ルイス・フロイスが「日本最大の海賊」と呼び、織田信長らからも一目置かれた集団がいました。因島、能島、来島を主な拠点とした村上海賊です。

 とくに近代以降「村上水軍」と呼ばれるようになりましたが、水軍は様々な顔のひとつに過ぎません。村上水軍博物館としていた当館の名称も2020年に改めました。

 軍事的活動のほかに海賊が行ったのは、瀬戸内海を航行する船から通行料をとり、安全を保証するボディーガードや、地形の複雑な海を熟知した水先案内人としての役割です。能島近くの島で朝鮮や中国の陶磁器が大量に見つかったことから物流にも関わっていたことが推測できます。また連歌や茶道、香道をたしなむ文化的な側面もありました。

 「能島村上家伝来猩々陣羽織」は戦国時代の当主・村上武吉と次男・景親が着用したと伝わるものです。鮮やかな赤色は最近の研究で、カイガラムシが原料のコチニールという染料によるとわかりましたが、当時は想像上の動物である猩々の血で染めたと考えられていました。

 武吉らが貿易を行っていたかどうかはわかっていませんが、いずれにしろ国外からもたらされたと考えられます。豊後のキリシタン大名、大友宗麟とも交流があったことがわかっているので、そうしたつながりからもたらされたものかもしれません。

 元は朱色に近い色だったと思われる「紅地白引両上字紋幟」は、船上などに立てたと考えられるもの。さおに通す輪の部分(乳)の縫い目は、魔よけの意味を持つと考えられる図柄になっています。

(聞き手・三品智子)


 《村上海賊ミュージアム》 愛媛県今治市宮窪町宮窪1285(問い合わせは0897・74・1065)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。310円。原則月、年末年始休み。

まつはな・なつみ

学芸員 松花菜摘

 まつはな・なつみ 学習院大学大学院人文科学研究科史学専攻博士前期課程修了。2018年今治市役所入庁。20年から現職。専門は日本中世史。

(2023年3月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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