水戸元祖 天狗納豆@水戸
茨城といえば納豆というイメージをつくったのが水戸の「天狗(てんぐ)納豆」。
JR王子駅から王子神社へ向かう途中に、卵焼き専門店「扇屋」はある。小さな店先に並べられたプラスチック容器から、鮮やかな黄色の「厚焼き玉子」がのぞく。
後方のビル1階が厨房(ちゅうぼう)で、扇屋はかつてその上階で営業する料亭だった。創業は江戸時代。飛鳥山の桜や滝野川の紅葉などへの行楽客でにぎわい、浮世絵や落語にも登場した。そこで厚焼き玉子と共に評判だったのが「釜焼き玉子」だ。幕末に英国人から教わったお菓子にヒントを得たもので、卵15個、しょうゆ、砂糖、かつおだし、塩水、酒を鍋に入れ、上下から熱して蒸し焼きにする。14代目の早船武彦さん(79)によると「宴席で残った料理を折に詰めてあげたのがきっかけで、卵焼きを持ち帰る人が多くなったようです」。
15年ほど前に料亭を閉じてからも、息子で15代目の武利さん(48)と卵焼きの伝統は守り続ける。扇屋の卵焼きは事前に溶いた卵を使わず、だしと混ぜてから程よく箸で溶く。すると空気を含みふわりとした食感に。「細やかな日本食の文化ですね」と武彦さんは話す。
(文・写真 中村和歌菜)
◆東京都北区岸町1の1の7(TEL03・3907・2567)。正午~午後7時ごろ(売り切れ次第終了)。不定休。王子駅。