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ひとえきがたり

卯之町駅(愛媛県、JR予讃線)

待合室ポカポカ おもてなし

卯之町駅
豆炭の火にぬくもって乗客と駅員が笑顔で言葉を交わす
卯之町駅 地図

 宇和盆地に朝霧が立ちこめる季節。温暖な四国とはいえ、冬場は朝夕の気温が零下になるほど冷え込みは厳しい。

 標高208メートルにある駅の待合室では、畳1畳ほどの大きさの火鉢が駅を利用する人たちを温めている。じんわり伝わる熱と、豆炭のはぜるかすかな音。毎冬の風物詩「愛の火鉢」だ。

 列車を待つ間の寒さを少しでも和らげようと、旧宇和町(現西予市)の観光協会が中心となって1959年に設置した。朝6時20分に火が入れられ、夕方5時半まで気温に合わせて駅員が火加減を調節する。11月末から春の彼岸までの4カ月で約300キロの豆炭を使うそうだ。

 「今の火鉢は2代目。昔は木炭で茶を沸かしてふるまっていたんですよ」と話すのは旧宇和町役場の元職員、大竹忠盛さん(75)。林業は町の主力産業。木炭が豊富に手に入った時代から時を経て燃料は豆炭に代わったが、半世紀以上続くもてなしの心は変わらない。

 「根底にはお接待の文化があるんです」と大竹さんは言う。駅から1キロほど北東に立つ四国八十八カ所霊場の43番札所、明石寺(めいせきじ)。町には、お遍路さんをねぎらう「お接待」の精神が息づいている。

 すげ笠をかぶり、金剛杖をついた男性が待合室に入ってきた。古希を迎えたのを機に遍路旅に出たという横浜市の高橋正毅さん(71)。「ムードがあるねえ」と、すっかり伸びたあごひげをさすった手を火鉢にかざした。

 文 曽根牧子撮影 渡辺瑞男

 

 JR予讃線は、高松駅(高松市)~宇和島駅(愛媛県宇和島市)を結ぶ計327キロ(内子線区間を除く)。

 1882(明治15)年築の開明学校(TEL0894・62・4292)は、卯之町駅から徒歩7分。現存する四国最古の小学校校舎といわれる。

 脱穀した稲わらを円錐(えんすい)状に積み上げる「わらぐろ」。伊予石城駅から徒歩15分の田んぼで12月20日(金)から1月7日(火)までライトアップされる。問い合わせは宇和わらぐろの会(62・9445)。

 伊予大洲駅から車で5分のおはなはん通りの周辺には明治時代の家並みが残る。

 駅から徒歩10分、江戸時代から昭和初期までの家屋が軒を連ねる卯之町の町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区。1770年築の末光家住宅や、1804年築で江戸時代から続く老舗の松屋旅館(TEL0894・62・0013)などが並ぶ。

卯之町の町並み

  

(2013年12月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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