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ひとえきがたり

岡山駅(岡山県、JR山陽線)

切り離し見届け縁結びの地へ

岡山駅
2分足らずの列車切り離しを撮影しようと大勢の人たちがカメラや携帯電話をかざす
岡山駅 岡山駅

 前日の夜10時に東京駅を発ち、JR山陰線出雲市駅をめざしてひた走る寝台特急「サンライズ出雲」。朝5時を過ぎ、車窓から見える空が白み始めた。岡山駅が近づく。タオルと歯ブラシを手に洗面台に急ぐ少年と通路ですれ違った。「早いね」と話しかけると、「列車の切り離しを動画で撮るんです」。

 東京~岡山駅間は高松駅行きの「サンライズ瀬戸」と連結して、14両編成で走る。岡山駅で「瀬戸」と「出雲」は切り離され、7両ずつそれぞれの目的地へ。作業時間は鉄道ファンや観光客はもちろん、婚活中の女性にとっても勝負の時。縁結びの出雲大社参拝を前に、列車の切り離しを「悪縁を絶つ」になぞらえ、写真に撮っておくそうだ。

 「瀬戸」寄りの8号車に乗客が集まった。6時27分、ドアが開くと一斉に連結部分へ。駅で待ち構えるファンも含め、30人ほどがカメラを構える。作業員2人が幌(ほろ)をしまって間もなく、プシューと音を立てて貫通扉が閉まった。「瀬戸」が発車すると連結器が外れ、小さく声を漏らす人も。身軽になった「出雲」にカメラを向ける乗客に放送が出発を告げる。

 「あっという間だったね!」。東京都世田谷区から来た34歳の女性が、10号車のラウンジで駅弁を広げながら友人に話しかけた。縁を切りたい人がいるんですかと尋ねると、「出雲参りの効果が高まる気がします」。含み笑いをして名物のばらずしをほおばった。

文 岡山朋代撮影 渡辺瑞男

 

沿線ぶらり

 「サンライズ出雲」は東京~出雲市駅間の953.6キロを約12時間で結ぶ。車体は赤とベージュを基調に金のラインを配し、日の出をイメージした。倉敷駅から伯備線に入り、伯耆大山駅の先は山陰線を走る。

 倉敷駅から徒歩15分の大原美術館(TEL086・422・0005)ではモネの「睡蓮(すいれん)」など、実業家の大原孫三郎が収集した名画が並ぶ。1300円。伯備線井倉駅から徒歩20分の井倉洞(TEL0867・75・2224)は全長1.2キロ、高低差90メートルの鍾乳洞。内部の気温は季節を問わず15~16℃に保たれている。1000円。

 

 興味津々
 

 切り離し作業で停車する7分間に朝食を確保する乗客も多い。三好野本店(TEL0120・353355)の桃太郎の祭ずし(1030円)は、モモの形をした容器にママカリの酢漬けなど岡山名物が入った駅弁。発車2日前までの電話注文で車両のドアまで配達してくれる。

(2014年6月3日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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