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建モノがたり

大学セミナーハウス本館(東京都八王子市)

交流の場願い 大地に知の楔

左の黄色いブリッジを渡ると、図書館や宿泊施設へ行くことができる
左の黄色いブリッジを渡ると、図書館や宿泊施設へ行くことができる
左の黄色いブリッジを渡ると、図書館や宿泊施設へ行くことができる 柱も梁(はり)もない4階の旧食堂。エレベーターがなく、食材の運搬は重労働だったという

上下を逆にしたピラミッドが、丘の上の地面に突き刺さる。なぜこの形? どうやって立っているのか?

 大学セミナーハウスは、東京女子大事務長などを務めた故・飯田宗一郎さんが大学の大規模化の弊害を憂慮し、自然の中に教師と学生の相互交流の場をと構想した。

 本館を含めほとんどを、ル・コルビュジエに師事した早稲田大教授の故・吉阪隆正さんと主宰するU研究室が設計した。

 本館の設計には難題があった。敷地は広大だが、丘陵地帯で平らな土地が限られる中、最上階に200人が集まれる食堂を設け、1階には広場を造りたい……研究室で様々な案を検討したが、決め手に欠けた。

 1970年代後半に研究室員だった建築家・齊藤祐子さん(66)が聞いた当時の話では、議論をしていたある時、一人が何げなく、ピラミッド型の模型を逆さにした。

 それを見て誰もが、機能も理念も満たす形だと一瞬にして感じたという。「大地に知の楔を打ち込む、シンボルが生まれたのです」

 しかし、実現可能なのか。東京タワーなどにも携わった構造建築の専門家に協力を仰いだ。斜めの壁面どうしが引っ張り合い、屋根や床が緩やかな曲面になる「シェル構造」を採用した。

 開館から55年、新たな建物ができる一方で取り壊されたものもある大学セミナーハウス。齊藤さんは2006年から有志らで維持活動や建築についての議論を行うワークショップを主催する。

 「自然と人と建物との共存を考える課題を残した吉阪は、建築家であり教育者でした」

(鈴木麻純、写真も)

 DATA

  設計:吉阪隆正(U研究室)
  階数:地下1階、地上4階
  用途:多目的ホールなど
  完成:1965年7月

 《最寄り駅》 北野、南大沢からバス


建モノがたり

 徒歩約7分のいろり焼ひな鳥山(問い合わせは042・675・0007)は全室個室で串焼きなどが味わえる。料理は店内の水路に浮かべた小舟で部屋まで運ばれ、いろりの炭火であぶる。午前11時~午後10時(入店は8時半まで)。(祝)を除く(水)休み。

(2020年10月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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