雑多なビルの合間、壁面に細く沿うような銅管から青々としげる緑がこぼれる。
JR池袋駅から歩いて5分ほど。幹線道路から一本通りを入ると、壁面から木々が勢いよく枝葉をのばすビルがある。コンクリート壁のビルに挟まれ、小さな森のようにも映る。
1階入り口を入ると、雲の上に座った木彫りの大仏が現れる。木を編み込んだ天井は奥に向かって反り返り、薄暗さの中にも光が取り込まれて厳かな印象だ。
「都市の山寺をイメージしました」。松栄山仙行寺の建て替えで設計を依頼された建築家の原田真宏さん(52)、原田麻魚さん(49)は話す。
仙行寺はもともと木造平屋の本堂で、桜の古木がある境内からビルの合間に青空が見えていた。東日本大震災で傷み、建て替えが必要になった。
本堂だけでなく納骨堂の空間も求められ、都会ならではの「大きな塊」となりかねなかった。それを逆手に取って「山寺」のように壁面に植物を植え、四季の移ろいに伴う山のような「いのち」の循環をデザインした。
ファサード(正面)は何本もの細い銅管で簾のように覆われている。遠くからみると木が生えている山のように映り、近くから見上げれば社寺建築の銅板葺きの反り屋根とイメージが重なるという。
長く地域の人々に親しまれてきた仙行寺。旧本堂にあった天井絵を7階の本堂に移し、あらたに1階に設けた大仏殿は地域に開放している。延べ床面積約1200平方メートル。湿ったような土壁や木漏れ日が映る障子など、細部にもこだわった設計となった。
鬼子母神エリアの歴史と都会らしい雰囲気が交差する南池袋。住職の朝比奈文邃さん(51)は「仙行寺がこれからも街の居場所のような存在になれば」と話す。
雑多なビルの合間、見上げるとうっそうと茂る緑に自然と手を合わせてしまいそうになる。「街を行く人の救いになるように」。そんな祈りが、仙行寺の建築には込められている。
(三浦旋律、写真も)
DATA 設計:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO 《最寄り駅》:池袋 |
徒歩約10分のタカセ池袋本店レストラン(☎03・3971・0211)は、1920(大正9)年創業の老舗。人気はハンバーグステーキ。分厚いハンバーグにデミグラスソースがかけられ、大きな半熟目玉焼きがのせられている。営業時間は午前前11時~午後4時、午後5時~9時。元日休み。