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私の描くグッとムービー

木下麦さん(映画監督)
「いまを生きる」(1989年)

 

 舞台は1959年、アメリカ北東部の全寮制男子高校。赴任してきた教師のキーティングが一風変わっている。


 彼は詩の美しさや人生の楽しさを生徒に説いたり、「物事は別の視点で見なければならない。ここからは世界が全く違って見える」と教卓の上に立たせたりもする。自由な生き方、新しい考え方に感化され、生徒たちは行動を変えていきます。でも、その行動は実を結んだり結ばなかったり、何より大きなリスクを伴う。決してきれいごとを描いている映画ではないんですが、生徒たちの姿がものすごく勇敢で美しい。


 美大生の頃に見て以来、年に1、2回はDVDを見てしまう。「大胆さと慎重さは表裏一体だ」というキーティングの言葉が印象深く、肝に銘じています。親友の自死の知らせを受け、雪原の中で「きれいだな」とつぶやいて生徒が泣き崩れるシーンも心に残っています。人は本当に悲しいと、突拍子もないことを言ってしまう。また、スリッパの置き方ひとつで神経質な人物像を表すなど、映像言語としても計算し尽くされている。


 イラストに描いたのは、キーティングの意見に耳を傾けて変化した生徒5人。でも、そうじゃない生徒もいた。キーティングが学校を去る時、自分の机の上に立って見送る生徒たちがいる一方で、立たない生徒もいた。思いが届かない人たちも一定数いるということを象徴していて、社会の縮図のようでリアルな描写だと思います。

(聞き手・水越悠美子)

 

  
   監督=ピーター・ウィアー   

 脚本=トム・シュルマン

 原作= N・H・クラインバウム

 出演=ロビン・ウィリアムズ、ロバート・ショーン・レナード、イーサン・ホークほか

 

 きのした・ばく  1990年生まれ、神奈川県出身。P.I.C.S.management所属。TVアニメ「オッドタクシー」で監督、キャラクターデザインを担当。初の長編映画監督作品「ホウセンカ」が公開中。
 

(2025年10月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます)

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